2007年リリースのファーストアルバム『ミラード』が評判となりました。音楽業界の前線で活躍してきたバトルスは、2009年にギター・ヴォーカリストのタイヨンダイ・ブラクストンの脱退を経て、その音楽の実験性に磨きをかけてきました。『グロスドロップ』はそんなバトルスの真骨頂を体現したエクスペリメンタルロック作品です。前衛性、ダイナミックさ、そして中毒性のあるポップさを持った作品であり、バトルスのずば抜けたセンスが全開となっています。
そんな作品のリミックスである『ドロスグロップ』では、特に、『Ice Cream』が印象的なナンバーとなっており、曲にもともと備わっていた奇妙な雰囲気を、ギャング・ギャング・ダンスのブライアン・デグロウが独自にアレンジし、オリジナリティを加えつつ、サイケデリックさ前面に押し出した仕上がりとなっています。また、レーベルメイトであるハドソン・モホークが手掛けた『Rolls Bayce』は、前衛性の中にもクセになるキュートさやポップさがつきつめられています。
アルバムを通して、さまざまなアーティストにリミックスを行われているにもかかわらず、原曲の色を失うことが全くなく、むしろ新たな価値観とともに曲の世界観が広げられています。これは彼らの楽曲の耐久性や、実験性の中で生まれた普遍性を証明することにすら繋がっており、改めてバトルスというバンドの力を感じさせられる作品です。
浮遊感や、足元の床が急に抜けるような意外性、こういったものは楽曲のほんの表面にすぎず、もっと奥にある深淵を垣間見るためには、このリミックスアルバムはどうしても必要なアルバムだったのかもしれません。これを通して多くのリスナーがバトルスの作品に対する多大なる「気付き」をしたことでしょうし、ダンス・サイケデリック・前衛音楽を中心にその後のシーンに与えた影響の大きさも普通ではないでしょう。
レディオヘッドのリミックスアルバムが言わずもがなで素晴らしいように、バトルスの本作が素晴らしいのも、ある意味では必然なのかもしれません。方向性は違えど、それだけ彼らの存在はシーンのなかで際立っています。
バトルスは2003年から活動しているアメリカのロックバンドです。エクスペリメンタル・ロックやポスト・ロックにカテゴライズされ、卓越したテクニックに裏付けられた実験的な作品を発表しています。このジャンルの音楽は、常にアバンギャルドであることが求められるものです。セカンドアルバム「グロス・ドロップ」では何人かのゲストボーカルを迎えることによってその姿勢を維持していました。
話題のリミックスアルバム
リミックスアルバム「ドロスグロップ」では、曲自体をリミキサーに委ね、さらに新しい作品として昇華させることを目指しています。ある音は消去され、ある音はさらに歪み、あるいはより鮮明になって耳に迫ってくるのです。もともと混沌とした音作りを身上とするバトルスのサウンドは、とても難解なものですが、古今東西の腕利きが解釈するとこんな感じになるのか、と新鮮な気持ちで聞くことができます。みなさんにはぜひ原曲とリミックスをじっくり聞き比べてほしいですね。ハドソン・モホークがリミックスした「Rolls Bayce」は心地の良い音を抽出していて、精製した砂糖のような甘さがあります。ドラムパートはより粒が立っていてリズミカルです。それでいて原曲のカオスな感じがしっかり残されているのが心憎いです。
楽曲の変化に驚き
「Ice Cream」は、原曲ではキース・エマーソンを思わせるシンセサイザーとマティアス・アグアーヨのノリのいいボーカルがフィーチャーされた「グロス・ドロップ」では屈指のポップ・チューンですが、ギャング・ギャング・ダンスのブライアン・デグロウ によって雑然としたトラックに変身しています。これだけ乱雑になっているのにラテンのノリがあるのが面白いです。どちらのリミックスも、バトルスに対する敬意と同時に、どんなに加工しても本質を変えることはできないという畏怖が感じられます。敬意と畏怖、それは一体のモンスターではないですか。そう思ってジャケットのオブジェを見ていると、なにやら生き物のように見えてくるから不思議です。
しかし、私はリミックスアルバムというのは、クラブで回す目的で作るものだと思っていたのですが、これをCDJにブッ込んでプレイしたら、果たしてフロアの人たちは踊ってくれるのでしょうか?きっと一瞬戸惑った表情を見せるに違いないですね。その後ハコが爆発するのか、ドン引きになるのか、回す人の技量が問われるところであるなあと思いました。そういう意味でも評判の高いこのアルバム、化け物じみていると言わざるを得ませんね。